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「ありがとうを言えなくて / 野村 克也」の感想・あらすじ

2024/02/03
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84点

感想

面白いだけでなく、いろいろと考えさせられる内容だった。
死期が近いことを自覚している人の言葉は、とても重く感じた。
人生には限りがあることを改めて痛感した。

家庭内別居

野村夫妻の趣味はテレビ鑑賞だったが、観る部屋は別々で家庭内別居していた。
極力互いに干渉しないことが、夫婦生活を送る中で自然とできたルールだった。

プレゼント

プレゼントのやり取りは一切しなかった。
一度だけ、店で「これいいわね」と言っていたブローチを誕生日にプレゼントした。
「なに、これ」の冷たいひと言だけで、翌日返品してしまった。
そのとき、金輪際プレゼントをするのは止めようと思った。

「気持ちだけ頂戴します」という言葉があるが、沙知代は「気持ち」を見ない。
純粋にモノとして見る。

よく「どんな女性でも花をあげれば喜ぶもの」とアドバイスされるが、その度に「どんなの中に含まれない女性も存在するのですよ」と返したくなる。
その代表格が沙知代だ。

沙知代夫人

頭を下げるとか、腰を低くするとか、そういうことは全てどこかへ捨ててきてしまったような女である。
全て上から目線。全て頭ごなし。
地球は自分中心に回っていると本気で思っているのだ。

妻は忠実な番犬のような面も持ち合わせていた。
ただ、番犬は番犬でもどう猛なドーベルマンである。
敵と判断すると、時と場所を考えずに吠え、噛みつく。
お陰で、こちらは助かるどころか迷惑を被ることも度々だった。

コロンビア大学留学は嘘だったのかと聞いたら「あんたには関係ないでしょ!」と怒鳴り散らされた。関係あるよな。

脱税事件

阪神監督3年目のオフ、スーツを着た男たちが家になだれ込んできた。
東京地検特捜部だという。
沙知代が脱税していたことには、全く気づかなかった。
特捜部の人に「知らないわけないでしょ」と責められたが、本当に何も知らなかったのだ。

妻の頭では「納税の義務」という国の仕組みが納得できなかったのだと思う。
自分で稼いだ金を自分で使って何が悪いのかと、本気で考えていた節がある。
税金を払う=国に金を盗まれる、くらいに思っていたのだろう。
それにしても、5億6千万円もの所得を隠していたとは…我ながら、よう稼いだもんだ。
脱税額を聞き、改めて実感した。
沙知代の手口が明らかになるにつれ、最後は捜査官も驚いていた。
「野村監督は本当に何も知らなかったんですね」
だから、最初からそう言ってるじゃないか。

生まれ変わっても沙知代と巡り合いたいかと聞かれたことがある。
勘弁してくれ。それが正直な気持ちだ。

人は何のために生きるのか

私の体はすでに死を待っているだけなのかもしれない。
人間は必ず死ぬ、いつか焼き場に入らなければならない。
もう見届ける人もいないから、今度入るとしたら私だ。

今さらだが、人は何のために生きているのだろう。
最近、西欧などでよく見かける巨大な宗教建築物がなぜ建てられたのか、その理由がようやくわかってきた。
それは、死への恐怖だ。
死ぬのが怖いから、あんなものをつくるのだ。
昔は、何でこんな無駄なものに大金と時間を注ぐのだろうと不思議でならなかった。
今の私にはそれがよく理解できる。
死ぬのが怖いから生きている。
人は何のために生きるのか。
今、私が確かに言えるのはそれだけだ。

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