「ちいさい言語学者の冒険 / 広瀬 友紀」の感想・あらすじ
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点数
73点
感想
全105ページと短かいのがよかった。
なるほどと思うことや、自分の子どもにもあるある、ということがいくつかあったが、これといって大きな発見はなかった。
言語は慣れることが一番、と改めて思った。
「おんなごころ」と「おんなことば」
「おんな」と「こころ」をくっつけたら「おんなごころ」なのに、「おんな」と「ことば」だと「おんなことば」である。
私たちはみんな、どういう理屈かわからないけど無意識にわかっているらしい。
だけど、何をわかっているかはわからない。
子どもたちはそうした知識をまさに試行錯誤しながら積み上げている最中である。
ライマンの法則
「おんなごころ」の「こころ」が濁音化するのはライマンの法則と呼ばれている。
ふたつめの語に濁音が含まれていると、濁音化は起こらないのである。
日本語の母語話者は、そんな法則にコントロールされていることも意識しないまま日本語を使いこなしている。
「は」にテンテンをつけたら?
子どもに「「た」にテンテンをつけたら?」と聞くと「だ」、「「さ」に点テンテンをつけたら?」と聞くと「ざ」と答えるが、「「は」にテンテンをつけたら?」と聞くと「あ」と答えたり、答えられなかったりする子どもがいる。
これはある意味正しい。
「は」と「ば」は口のなかのまったく異なる場所を使って発音される音である。
「た」と「だ」の関係が成り立っているのは「ば」と「ぱ」である。
「さ」と「しゃ」(「S」と「ʃ」)
世界共通で使われる音声学の記号でいえば、「さ、し、す、せ、そ」の子音は「s」で「しゃ、し、しゅ、しぇ、しょ」の子音は、sよりちょっとだけ後ろの一で発音する「ʃ」である。
日本語には「ʃ」に対応した仮名がないので、次善の策として「し」と「ゃ」の組み合わせでこれを表すことに決めたまでである。
子ども語あるある
「子ども語あるある」の常に上位にくる例が「かににさされた」「ちががでた」である。
1拍の単語は座りが悪いから、2拍になるように単語の境界が見直される、または助詞の音が重ねられている。
同じくあるあるの上位に「とうもころし」「さなか」などがある。
これら「音が入れ替わる系」のエラーは音位転換と呼ばれている。
入れ替わった結果、発音しやすくなっているのだと解釈されている。
なじみのある音に引っ張られるとおぼしき例が目立つ。
「ころころ」の「ころ」とか「おなか」の「なか」とか、いかにも子どもになじみがありそうである。
ナ行の五段活用は「死ぬ」だけ
「死む」「死まない」「死めば」も子ども語あるあるによく出てくる。
じつは、「飲む」や「読む」などマ行五段活用の動詞はたくさんあるが、ナ行の五段活用というのは現代の日本語では「死ぬ」ただひとつである。
両方とも「飲んだ」「死んだ」というふうに、活用語尾が「ん」になることについては、たまたま形が共通している。
おそらく子どもは、「死んじゃった」は「飲んじゃった」や「読んじゃった」と同じ使い方をすることばなんだな、という類推を行っている。
そうして、ふだん慣れているマ行動詞の活用系を「死ぬ」にも当てはめているのだと推測することができる。
過剰一般化
小さい子どもがが犬を見たときに、それを「ワンワンね」と教わったとする。
その後、その子は猫や牛などを見ても「ワンワン」と呼ぶようになる。
これは、ワンワンの対象を特定の動物から動物一般に拡大解釈している例である。
これを過剰一般化という。