第10章:発想の力
味の素の売り上げが落ちてきたとき、会議を開いたところ「名前が古い」「漢字ではなく英語にしたらどうか」などていろいろな意見を出たが重役はどれも気にいらない。
つまらなそうにしていた新入社員に意見を聞いたところ「要するに売れる量が増えたらいいんでしょう。入れ物の瓶の穴を大きくしたらいいんじゃないですか」と答え、その発案により売上が上がった。
NECで半導体は、熊本の郊外にある工場の製品だけなぜか不良品が多かった。
ある時、若い女性従業員が工場の目の前の踏切で貨物列車の通貨を待っている間、ふと「この振動が、人間には感じられないが精密な機会に悪い影響を与えているのではないか」と思いついた。
その後、工場の周りに振動を吸収するために深い掘を造ったら不良品がなくなった。
第12章:挫折と再起
ケネディ一族の実態はおぞましいものでしかなかった。
長老ジョセフ・ケネディは禁酒法時代に密造酒の原料となるアルコールをマフィアに売り莫大な富を築き、その金でイギリス大使の株を買って赴任した。
一族が暗殺や不慮の事故に遭うのは、先祖の因縁の祟りとしかいいようあるまい。
JFKが始めた泥沼のベトナム戦争を終結してアメリカを救ったのはニクソンだよ。
ドルを金本位体制から切り離し、結果としてドルを世界の絶対的通貨にしてしまったのも彼だった。大統領選の投票が進む段階でケネディ陣営の選挙違反がバレて、訴訟が通れば選挙がやり直しという羽目になった。
ニクソンはアイゼンハワーに「ここでやり直しになったらアメリカのデモクラシーに大きな傷がつく」と説得され提訴を諦めた。引退後、ニクソンは岸信介元総理の肝煎りで年に一度は日本やってきていた。
その度、新橋の料亭「新喜楽」で彼を囲む宴があり、僕も福田赳夫さんに選ばれて毎回その席にいた。
ある時ケネディとの選挙の虚構について「敢えて敗北宣言をした時のあなたほど、勇気があって孤独な人間は世界中にいなかったと思います」と言ったら「あの時ほど独りっきりでつらかったことはない」「あれは誰にもわかりはしないことだった。私自身が自分にそれを理解させるのに苦労した」と目を潤ませながら言った。
第14章:肉体とその死
人間はいつかは必ず死ぬが、それを知ってはいても自分の死を信じている人間はほとんどいない。
フランスの哲学者ジャンケレヴィッチは「死」という本で「人間は誰しも、人間は必ず死ぬということは知っている。しかし自分が死ぬということを信じて生きている者はいない」「死は人間にとっての最後の未来だ、が故に誰にもそれが何かはわかりはしないし、最後の道を信じられない」と指摘している。
これは人間の業で、存在というものには限りがあるということは承知していても、いざ自分自身のこととなると信じられないというより納得できない。
なまじの知性があり欲望を意識することのできる人間良いう動物の弱さだろう。
古い木造家屋が密集した地域の震災対策に手をつけようとしても、住民は「いつか地震がくるだろうけどうちは大丈夫」と言う。
これもジャンケレヴィッチが指摘した「人間が死ぬということへの認識」と同じ、人間としての迷妄なんだ。
第20章:人との出会い
就職試験前、一橋文芸の復刊を画策していたが、そのための金が集まらなかった。
一橋の先輩である作家の伊藤整さんの家に押しかけて懇願したところ、1万円をくれた。
そのお金で印刷屋に前金を払うことはできたが、雑誌が出来上がった後、本を引き取るお金が足りなかった。
もう一度伊藤先輩にお願いし、もう1万円出してもらった。伊藤さんの好意があったから、その後芥川賞を受賞することができた。
伊藤さんに作家としての身の施し方を相談した際は「なんでも思い切って試みたらいい。作家なんだから、もし失敗したらなぜ失敗したかを書けばいい」と有益極まりない忠告をしてくれた。
伊藤さんとの関わりは、まさに神様が与えてくれる人生の奇跡だと思っている。
第21章:人間の脳
分裂病により凶暴な性格となって周りの手に追えなくなる患者の対処に今みたいに良い薬がまだなかった頃、安全のために大脳の一部を切り取ってしまうという乱暴な手段が講じられたことがある。
ロボトミーという手術で、患者の凶暴性はなくなるが、人格が一変して全く無気力な人間になってしまったそうな。
第22章:男と女
同性愛はどうにも奇異なものに感じられるが実は遺伝学的に優にあり得ることなのだ、ということを最近僕は知らされた。
それまで同性愛者に対して偏見を抱いていたが、ある学者から遺伝学的に同性愛の存在は避けられないものだと教えられた。
それを知るまで僕はホモセクシャルに関して無知故に強い偏見を持っていて軽蔑までしていたが、それを知らされて今までの自分を反省してもいる。哺乳類に共通した遺伝の原理で、20%はホモ、20%はヘテロ(異性しか愛せない)が誕生してくる。
ホモは群れからキックアウトされてその世代で途絶えてしまうが、人間の場合には獣と違って様々な感情や知識が働いてそうした感情を受け入れ、同性間の結婚にまで導いていくということだ。